左利きの融心さん

御先祖様を探し始めた若僧です

家系図作成記その⑥(失踪した祖父)

病に倒れたT彦はまだ50歳でしたが、自分がもうあと1年も持たないと自分で分かっていました。

M子と息子のhが見舞いに来た時には、ただただ泣き続けました。hはT彦の話などまともに聞かずにしかめ面をしていました。M子は、隣にいる別の女性とT彦に、「もう私はH家の籍などいりません。お返しします。」と言いましたが、T彦は断りました。「どうか、息子のために籍は抜かずに置いといてくれ。」と、泣きながら頼みました。別の女性や新しいT彦の政婦など、M子の知らない人達との空気に耐えきれず、M子は帰って来ました。籍は抜かずに置いたままにしましたが、どうもその空間にはいられませんでした。

 

その後、T彦は亡くなりました。M子とM子の母親が葬儀へ行きました。T彦は家を出てから違う宗教に入信したらしく、それまで見たことのない形式の葬儀が営まれていました。hは父親のT彦を恨んでいましたが、それでもM子は、T彦の事が忘れられませんでした。遺骨を持って帰ろうと思いました。するとM子の母は、「お前は、ちょうど良い具合に焼けてきた美味しそうな魚を猫に取られたら、骨だけ持って帰って来るのか?そんな情けない事するのか?」と、周りにも聞こえるように言い放ちました。M子は諦めて、遺骨を引き取らずに帰って来ました。

後日、せめてお墓参りはと懇願し、M子と母親はお墓参りへ行きました。しかしそこには、あったずのH家のお墓がありませんでした。近隣の人に尋ねた所、T彦と同居していた女性が県外へ持って帰って行ったとの事でした。

 

ここまでが、私の祖父の話になります。

祖父はその女性に金銭的な援助をしていたようで、別れるに別れられなくなってしまったようでした。未だにH家の性を名乗り続けていますが、H家の親族との交流はないのです。